【初めての資産形成 中編】家計の見える化と先取り貯蓄で将来に備えよう
(最終更新日:2024年03月15日)
前回のおさらい
前回記事では、資産形成と資産運用の違いを解説した上で、可処分所得の減少や老後2000万円問題など背景から自助努力で資産形成する必要性が高まっていることをお伝えしました。
今回は資産形成の具体的な手順についてお伝えしたいと思います。
資産形成とは
資産形成とは、現時点で資産がほとんどない状態から少しずつ資産を着実に増加させていくことをいいます。
「教育資金」「住宅購入資金」「老後生活資金」は人生の三大支出と言われ、どれも大きな金額が必要になります。
こういった将来の大きな出費に備えて資産形成を行う必要あります。
資産形成の3ステップ
資産形成は下記の3つのステップで行うと良いでしょう。
(1)ゴール(目標金額・時期)を決める
(2)貯まる仕組みをつくる
(3)増やす
資産形成(1) ゴール(目標金額・時期)を決める
まずは資産形成のゴールを決めましょう。
ポイントは2つで、「いつまでに」「いくら」を決めることです。
この2つのポイントが定まっていないと資産形成をしたはいいものの、間に合わないといった状況になる可能性があります。
具体的にいうと、「子どもの大学の進学費用が足りない」「住宅の頭金が足りない」といった状況です。
ゴール(目標金額・時期)を決めるにはシミュレーションが必要
ただ、「いつまでに」「いくら」というのは簡単に決められないことが多いです。
というのも、様々な個別の事情によって必要な金額やタイミングが異なるからです。
「教育資金」「住宅購入資金」「老後生活資金」を例にとってみましょう。
教育資金のゴール(目標金額・時期)を左右する主な要素
・子どもの人数
・子どもの年齢(教育費がかかるタイミングがこれで決まります)
・子どもの進学プラン(国公立/私立 自宅通学/一人暮らし)
進学プランにもよりますが、オール国公立(大学自宅通学)で約1,000万円、オール私立(大学一人暮らし)で約2,600万円の教育資金が必要となります。
医学部、大学院などの進学プランだともっとかかる可能性もあります。
住宅購入資金のゴール(目標金額・時期)を左右する主な要素
・購入予定物件の金額
・頭金の割合
・住宅購入のタイミング
老後生活資金のゴール(目標金額・時期)を左右する主な要素
・生活費
・公的年金額
・退職金の有無
・貯蓄額
・働く期間
・夫婦の年齢、および年齢差
老後2,000万問題とよく言われますが、いくら必要かは上記要素によって千差万別となります。
ゴールを正確に設定するにはファイナンシャルプランナーなどに相談すると良いでしょう。
資産形成(2) 貯まる仕組みをつくる
仮にゴールが決まったとしましょう。次のステップは貯まる仕組みをつくることです。
貯まる仕組みとは毎月●●万円が確実に貯蓄できる状態をいいます。
将来の大きな出費に備えるには毎月コツコツ貯蓄することが非常に重要になります。
というのも、収入が劇的に増えればよいのですが、それは自分だけの意思ではどうにもならない時もあります。
よって、確実にコントロールできるのは出費ということになります。
この時点ですぐに株や投資信託などの投資商品に取り組むことはお勧めしません。
出費をコントロールして、まずは「月収の3ヶ月分」といったまとまった金額の貯蓄をすることを目指しましょう。
月の収支を見える化して支出を改善する
毎月の貯蓄を行うにはまずは収支の見える化を行います。言い換えると家計簿をつけるということです。
めんどくさいと思われるかもしれませんが、将来のためです。
1ヶ月分のレシート、クレジットカード明細をおおまかに10分類程度に仕分けします。頑張れば2〜3時間程度でできると思います。
ここでは、例として、Aさん一家の家計を見える化してみましょう。
・Aさん一家(夫婦+子ども2歳、持家)
下記はAさん一家の1ヶ月の収支をまとめたものです。
収入 | 支出(+貯蓄) | ||
---|---|---|---|
給与 | 30万 | 貯蓄 | 0万 |
住居費 | 8万 | ||
水道光熱費 | 2万 | ||
通信費 | 2万 | ||
食費 | 4万 | ||
衣服理美容費 | 2万 | ||
車関連費 | 4万 | ||
交際レジャー費 | 5万 | ||
保険料 | 3万 | ||
合計 | 30万 | 合計 | 30万 |
これで家計の収支が見える化できました。
貯蓄はゼロで、収入の30万円を全て使っていることがわかります。これでは、将来の教育資金や老後生活資金の準備が不安ですよね。
次に項目ごとに支出の改善をしていきます。
支出の改善のポイントは「金額の大きい毎月固定の支出」から手をつけていくことです。
以下に支出改善の例を解説していきます。
支出改善例①住居費 住宅ローンの借り換え
Aさん一家の出費で最も金額の大きいのが住居費でした。
しかもAさんは持ち家なので、住宅ローンを借りている可能性が高いです。
住宅ローンを借りている場合には住宅ローンの借り換えによって出費を減らせる可能性があります。
住宅ローンの借り換えメリット額
(出典)株式会社MFSモゲチェックユーザー12,307名に実施した借り換えメリット額調査(2016年7⽉21⽇)
上記のグラフは住宅ローンの借り換えによって返済額が減らすことができた「借り換えメリット額」のグラフです。
実に2人に1人が100万円以上の借り換えメリットを実現していることがわかります。
民間金融機関の住宅ローン金利推移(店頭表示金利)
(出典) 住宅金融支援機構 民間金融機関の住宅ローン金利推移(変動金利等)
というのも、住宅ローンの金利は史上最低金利と言われる低金利の水準が続いています。
目安として、もし現在借入中の住宅ローンの金利が1%以上であれば、借り換えメリットが出る可能性がありますので検討すると良いでしょう。
支出改善例②車関連費 カーシェアを活用
次に車関連費をみてみましょう。月4万円です。
マイカーの場合、下記の支出がかかります。
・車検
・自動車保険
・ガソリン代
・駐車場代(あれば)
・マイカーローン(あれば)
これは、車の使用頻度や車に対する価値観にもよるのですが、
・車は週末に乗る程度。乗らない週末もある。
・車はあくまで移動手段、カーシェアでも移動ができれば問題ない
・自宅の近くにカーシェアのポイントがある
という場合にはカーシェアに切り替えることで支出を減らせる可能性があります。
ただし、カーシェアは週末や連休には取り合いになりますので、その辺りも考慮する必要があります。
支出改善例③通信費
次に通信費をみてみましょう。月2万円です。
Aさん一家で自宅のインターネットに月5,000円、夫婦2人の携帯料金が15,000円となっていました。
自宅のインターネットは携帯キャリアと同一会社にすると割引になるプランが多くあります。
携帯料金については、キャリアをまとめる、格安SIMに切り替える(通信量や通話量によっては安くならない可能性もあります)といったことを行えば支出を減らせる可能性があります。
支出改善例④食費 交際レジャー費
次に食費(4万円)、交際レジャー費(5万円)をみてみましょう。
これも個人の価値観によりますが、節約できる可能性はあります。例えば、カフェのコーヒーをコンビニコーヒーにする、外食を月1回減らす、などです。
切り詰めすぎると長続きしませんので、できる範囲で改善をしていきましょう。
支出改善例⑤保険料
次に保険料をみてみましょう。月3万円です。
保険料が多い少ないというのは家庭の状況によって異なりますので一概に言えませんが、下記のチェックリストに一つでも当てはまる方は一度保険の確認、見直しをしてみると良いでしょう。
<保険見直しチェックリスト>
□加入時に保険会社の比較をしていない
□加入後3年以上見直していない
□加入後 家族構成が変わった
□加入後 転職 家購入 等のライフイベントがあった
□我が家の保険の内容を把握できていない
保険の見直しを行うと、いまの家庭の状況からすると保険を多くかけすぎている、ということもあるかもしれません。
逆に保険が足りない場合には追加で保険加入となれば支出が増えてしまうのですが、万が一のリスクに備えるという意味では必要な支出と考えた方が良いでしょう。
保険会社の比較についですが、比較をするだけで保障内容を変えずに保険料を安くできる可能性があります。
その他、支出の各項目を改善すれば、確実に貯蓄ができるようになります。
資産と負債を見える化してゴールへの進捗を確認
次に資産と負債を見える化します。
資産は現金、預金、その他売ればお金になるものです。
負債はいわゆる借金・ローンです。
資産と負債を全てリストアップします。
Aさん一家の資産と負債の一覧は下記のようになりました。
資産 | 負債 | ||
---|---|---|---|
預金 | 0万円 | 住宅ローン | 1,500万円 |
自宅 | 1,500万円 | マイカーローン | 100万円 |
マイカー | 50万円 | カードローン | 0 |
有価証券 | 0万円 | ||
合計 | 1,550万円 | 合計 | 1,600万円 |
現時点では、預金がゼロ、資産<負債となっています。
これはよくない状況ですが、前述の支出改善を行い貯蓄をコツコツ行えば、預金が増え、資産>負債となっていきます。
資産と負債の確認は3ヶ月に一度、もしくは半年に一度など、定期的に行えば、ゴールに対してどの程度進んでいるかを確認することができます。
【ポイント!】先取り貯蓄で確実に貯蓄を増やしていく
各支出の改善を行い、資産状況を把握したとしても、確実に毎月貯蓄を行うにはまだ足りません。
というのも、支出を削減したとしてもついつい他の支出をしてしまう、ということがあるからです。
それを防ぎ、確実に毎月貯蓄を行うために非常に強力な手段が「先取り貯蓄」です。
Aさんの場合、月収30万のうち、例えば5万円を貯蓄できる商品(定期預金、貯蓄性のある保険、投資信託など)に投資していきます。(※Aさんの場合貯蓄がゼロでしたのでまずは定期預金などが良いでしょう。)
給料日以降できるだけ早いタイミングで、自動引き落としとなるものがベストです。
商品は簡単に引き出せないものが良いです。
そうすると、自然と残った金額で生活をやりくりできるようになります。
この先取り貯蓄は給与の天引きに似ています。
国は会社勤めの人から社会保険料や税金を給与天引きしますよね。
そうすることによって、国は確実に社会保険料や税金を徴収することができるのです。
先取り貯蓄は「世帯の中で天引きする」ようなイメージで、毎月確実に資産形成に資金を充てることができます。
できれば自己投資も
可能であれば、自己投資(収入UPに繋がるセミナー受講、資格取得、読書その他)も毎月ちょっとでもいいのでやると良いでしょう。
そうすること、支出のコントロール+収入UPで資産形成が加速していきます。
数ヶ月先取り貯蓄を行ったAさんの資産状況はどうなっているでしょうか。
努力が身を結び、資産>負債 という状態になりました。
預金が100万円となり、月収の3ヶ月分以上の金額が手元にあります。このくらいの金額があれば、予期せぬ出費(病気、けが、大きな買い物)に対しても対応しやすくなります。
ある程度の余裕資金ができて初めて次の「増やす」というステップに移ります。
資産形成(3) 増やす
増やすには金融商品を買って運用する必要あります。
ここでは「どの商品を買えばいいか」といったお話ではなく、金融商品の購入する上での重要となる下記の基本的な3つの考え方をご紹介します。
①長期投資(早く始める)
②商品を分散して投資する
③購入時期を分散する
参考:資産運用は分散、長期、ドルコスト平均法で賢い資産形成を
資産を増やすポイント①長期投資(早く始める)
資産形成する上で、長期投資を行うと複利の効果を最大限に活かすことができます。
100万円を40年間複利運用した場合の運用実績
上記のグラフは、100万円を40年間複利運用した場合の運用実績をグラフにしたものです。
青い線は利率0.001%(普通預金金利程度)で複利運用した場合です。ほとんど増えていないことがわかります。
緑の線は利率10%で複利運用した場合です。期間が経過するにつれてグラフが急カーブで上昇しています。
40年後には4,500万円(元本の45倍)にもなっています。
これはあくまで机上の比較ではありますが、長期投資で時間を味方につけることは非常に有効です。
言い換えますと「早く始める」ということです。(出費は待ってくれませんよね)
資産を増やすポイント②商品を分散して投資する
次のポイントは商品を分散することです。わかりやすいよくある例え話としてタマゴの話を紹介します。
「卵はひとつのカゴに盛るな」という資産運用に関することわざをご存知ですか?
ひとつのカゴに全ての卵を盛った場合、そのカゴを落とせば全ての卵が割れてしまいますが、いくつかのカゴに分けて盛っていればひとつを落としても全ての卵が割れてしまうことを避けられるという教えです。
つまり「運用先を分散させる」ことでリスクを小さくすることが大切なのです。
下記の図は、主な金融商品とリスク・リターンの関係を示したものです。
主な金融商品とリスク・リターンの関係
このように、大きなリターン(儲け)を得ようとすれば、大きなリスクを引き受けることになります。
では、分散して投資をするというのは、具体的にはどういう投資になるのでしょうか。
・金融商品を複数に分散する
預金だけでなく、債券、保険、株式、不動産、原油や金などの複数の種類の商品に投資することでリスクを小さくすることができます。
・複数の国や地域、企業に投資先を分ける
もしどこかの国でなにか地震や戦争などがあったとしても他の国にも投資をしておけば資産が減ってしまうリスクを回避することができます。
また、ひとつの金融商品(例えば株式)のなかでも、一つの企業だけでなく複数の企業の分散することも資産分散にあたります。
・債券と株式を持つ
一般的には債券と株式は値動きの相反しますので、両方の資産を持つことは一方の値崩れのリスクを回避することになります。
・複数の通貨で資産を保有する
例えば円建ての資産と米ドル建ての資産を持つことで為替リスクを回避することができます。
資産を増やすポイント③購入時期を分散する
次のポイントもタマゴの例え話を紹介します。
例えば、ひとつのカゴに同じ日に全ての卵を盛って、そのカゴを落としてしまったら全ての卵が割れてしまいます。
同じ日に全ての卵を盛った場合
カゴに盛るタイミングを分ければ、1日目にカゴを落として卵が割れても、2日目以降に残しておいた卵をカゴに盛ることができ、全ての卵が割れてしまうことを避けられます。
カゴに盛るタイミングを分けた場合
これは、実際の経済の流れを見ればよりイメージがわくと思います。
下記のグラフはバブル期以降の景気循環を指数で示したものです。
(出典)毎日新聞2017年11月5日 58カ月「いざなぎ景気」を超える景気拡大 生活面の実感乏しく
https://mainichi.jp/articles/20171105/ddm/008/020/067000c
好景気と不景気を繰り返していることがわかると思います。
もし不景気に突入する直前に全額購入していたら・・・おそらく大きな損失を被ることになるでしょう。
急上昇の手前で購入できれば大きな利益を出すことができますが、いつ相場が上がるかは読めないものです。
先が読めないからこそ、購入時期を分散することでリスクを小さくするのです。(ドルコスト平均法といいます。)
毎月定額の積立型の投資信託がありますが、がまさにこのやり方を行える商品の代表です。
「ゴールを決める、貯める仕組みを作る、増やす」この3ステップを取り入れて見ていただければと思います。
あれこれ難しいと言う方は、たった一つ、先取り貯蓄だけでも資産形成が大きく前に進みます。
後編はこちら